前回記事の続きです。

1.詫間海軍航空隊とは

第二次世界大戦時、ここに日本海軍の水上機の一大作戦基地 ”詫間海軍航空隊” が設けられ、大戦末期の沖縄戦においては、「こんな飛行機で本当に特攻出撃したのか?」と思われるような偵察機として使われた古い水上飛行機で特攻作戦が実施され、この場所から飛び立った多くの若者が散っていきました。 

詳細は前回記事をご覧ください。




2.詫間海軍航空隊 滑走台(スリップ)の現状

史跡碑に書かれていた当時の平面図
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史跡には、平成十二年(西暦二千年)十一月付けで 「わずかに水際四箇所のスベリと横穴式防空壕を残すのみとなっている。」となっています。

その後、調べてみると 「大艇用3基と小艇用1基が現存している。」ということがわかりました。

上記の図面でいうと、青色矢印で示した一番東側(右側)が小艇用の滑走台(スリップ)、少し離れた西側の3基(黄色矢印、赤矢印)が大艇用の滑走台(スリップ)です。

ここを訪れた5月7日。 事前には4基のスリップが現存することは頭に入れ訪れたのですが、3基しか確認できませんでした。

そこで自宅に帰ってから調べた事と、現地で撮った写真を照らし合わせて、なんと大艇用3基のうちの一基の滑走台(スリップ)が埋め立てられ、民間企業(工場)の積出桟橋として利用されていることが判明したのです!

下記画像は(↓) グーグル・アースの衛星画像です。 

東側(青矢印)が、小艇用の滑走台(スリップ)。 その西側の赤矢印の部分は、本来大艇用の滑走台(スリップ)ですが、ここが埋め立てられて一企業の積出桟橋として利用されています。
黄色矢印の大艇用滑走台(スリップ)は現存。
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拡大してみます。
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この一基だけ、本来の滑走台の体をなしていないのがよくおわかりになると思います。


この海岸線の西側の堤防に行ってみました。
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防潮扉が開いていたので、堤防の先端から写真を撮っていました。

大艇用3基のうちの一番東の滑走台を基礎として利用され、そこから埋め立てられているのがわかります(赤矢印の先端部分)。 
(画像をクリックしていただけると、画像が拡大できます。)
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さらに、この滑走台を埋め立ててつくられた積出桟橋を グーグルマップのストリートビューで確認します。
スリップ工事01

スリップ工事02

スリップ工事032

先に書いたように、ここを訪れた際には 4基のうち3基の滑走台(スリップ)しか確認できませんでした。

まさかこのうちの1基が埋められているとは露ほども思わなかったからです。

なので・・

今回 この埋め立てされた桟橋に少しの間だけバイクをとめ、ここから西側の滑走台(スリップ)の写真を撮っていました。

この時は、「滑走台(スリップ)、あと一基あるはずなのになあ??」と・・。(^^;

まさかバイクをとめた桟橋の基礎に滑走台(スリップ)が使われていたとは・・(; ̄Д ̄)
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この埋立問題の本質に迫っていく前に、他の滑走台(スリップ)の現状を紹介します。

一番東側の小艇用滑走台(スリップ)。

小型艇ということで、九四式水上偵察機や零式水上偵察機がこのスリップから飛び立っていったのでしょう。

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防潮扉が開いていたので、おりることができました。
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面積は西側3基の大艇用スリップより大きいので、複数機で同時離陸していたのでしょうか・・。


西側からふたつめの大艇用スリップです。
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防潮扉は閉まっていたので道側から撮影。
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一番西側の大艇用スリップです。

こちらの防潮扉も閉まっていたので道側から撮影。
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3.詫間海軍航空隊 滑走台(スリップ)の埋め立て問題

上記のとおり、現在 4基ある滑走台(スリップ)のうち1基が埋め立てられ、民間企業(工場)の積出桟橋として利用されています。

このような埋立てが、水上飛行機でありながら特攻を命ぜられ、海に散っていった英霊を冒涜する行為はもちろんのこと、他にもいくつかの問題をはらんでいるのです。

1)土木学会推奨土木遺産であること

この詫間海軍航空隊航空滑走台(スリップ)は、2006年(平成18年)度 公益社団法人土木学会が選奨した「土木学会選奨土木遺産」です。

*公益社団法人土木学会とは・・土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、学術文化の進展と社会の発展に寄与することを目的として1914年に設立された公益社団法人。
参照(関連HPのURL) :  https://www.jsce.or.jp/

*土木学会選奨土木遺産とは
土木遺産の顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的として、平成12年に認定制度を設立。推薦および一般公募により、年間20件程度を選出。
参照(関連HPのURL) : https://www.jsce.or.jp/contents/isan/

*認定制度の設立趣旨
(以下 土木学会HPより抜粋)
土木学会では、土木遺産の顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的として、土木学会選奨土木遺産の認定制度を平成12年に設立いたしました。

土木学会としては、その結果として、(1)社会へのアピール(土木遺産の文化的価値の評価、社会への理解等)、(2)土木技術者へのアピール(先輩技術者の仕事への敬意、将来の文化財創出への認識と責任の自覚等の喚起)(3)まちづくりへの活用(土木遺産は、地域の自然や歴史・文化を中心とした地域資産の核となるものであるとの認識の喚起)(4)失われるおそれのある土木遺産の救済 (貴重な土木遺産の保護)、などが促されることを期待しています。
参照(関連HPのURL) : https://committees.jsce.or.jp/heritage/



詫間海軍航空隊滑走台の選奨にあたって、下記のように書かれています。
土木学会選奨土木遺産00a

名称:詫間海軍航空隊滑走台(たくまかいぐんこうくうたいかっそうだい)
所在地:香川県/三豊市
竣工年:昭和18年
選奨年:2006年 平成18年度
選奨理由:
詫間海軍航空隊滑走台は、旧海軍水上機基地としての特徴を よく示す滑走台が良好な状態で現存する、全国的にも希有な事例である。

赤枠の部分をテキスト形式で記述します。

水上機の進水を目的とした〝滑走台〞(スリップ)は1943年に竣功し、大艇用3基と小艇用1基が現存している。潜水夫によって海底に割石基礎が築かれ、その上にコンクリート盤が4.5度の勾配をもって施工されている。側面は花崗岩間知石が施され、西端の滑走台には軌道も取り付けられているが、東端は水平に改修され荷揚げ場となっている。
旧日本海軍の滑走台は愛知県美浜町、茨城県阿見町、千葉県館山市のほか、台湾・屏東縣の大鵬灣など外地にも現存している。これらとの関連については今後の調査研究にてさらに明らかになるものと期待したい。

当地は神風特攻隊出陣の地としても知られ、航空隊基地跡の碑石整備(2000年)などこの地の歴史を真摯に見つめ直す動きが近年活発である。そして2006年には選奨土木遺産というもう一つの観点からこの地を再考する動きがあった。施設整備を可能とした自然地理的条件と、呉軍港への近接性という社会的背景からその成立の系譜を客観的にとらえ直すことの意義も大きい。このことは、国防遺産や軍事遺産に対するもう一つのアプローチが可能であることを示唆している。

飛行艇の台頭は、未来を構想する明治の文人の心をも確かにとらえていた。富国強兵という厳格なイデオロギーの遺産に対して、滑走台越しに眺める瀬戸内の穏やかな波間の風景は悲しいまでに明快なコントラストを形成している。敵地に散っていった同胞たちへのこのレクイエムは、新しき日本の構築に邁進したひたむきな土木エンジニアたちへの賛歌とはなり得ないであろうか。
参照(関連HPのURL) : https://committees.jsce.or.jp/heritage/node/478


上記文中、「西端の滑走台には軌道も取り付けられているが、東端は水平に改修され荷揚げ場となっている。」と記述がありますが、この東端滑走台がどこを指しているかはわかりません。

4基ある滑走台の東端は小艇用の滑走台で、今回私が問題としている埋立てられた滑走台ではありませんが、このことを指しているのか??


また、土木学会選奨土木遺産の申請にあたって、対象は以下のようになっていました。

< 対象>
選考の対象は、交通(道路,鉄道,港湾,河川,航空,灯標)、防災(治水,防潮,防風)、農林水産業(灌漑,干拓,排水,営林,漁港)、エネルギー(発電,炭田,鉱山)、衛生(上下水道)、産業(工業用水,造船)、軍事などの用途に供された広義の土木関連施設が対象となります。事業単位、もしくは、構造物単位の両方で推薦することが可能です。但し、対象とする施設が現存していることを原則とします(跡地などは含みません)。なお、竣工後50年以上を経過したものを対象とします。

<要件>
選奨土木遺産に認定することが、施設管理者より同意されていることを条件とします。また、公的機関や学協会による文化財などの指定を受けていないことを原則とします。選奨土木遺産として土木学会より認定された場合は、1年以内に認定されたことを公表(アピール)するイベントなどの開催をお願いいたします。

そして応募にあたって必要となる公募候補推薦調書には、施設管理者の同意書(任意様式)も必要となっていました。

いずれにせよ、このような選奨土木遺産になるような後世に残すべき遺産を、誰が・いつ・どうして破壊(埋立て)したのか!?


何か糸口を探すために、防潮堤に貼られていた「詫間港 海岸海岸管理者 香川県西讃土木事務所」に電話で問い合わせてみました。

(印刷されていた 海岸海岸管理者って何?? (^^; )
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電話をかけたのは5月16日(月)。 その際は担当者は席をはずしており、同日 お昼過ぎに担当者K氏から電話が入りました。

私:「詫間海軍航空隊に関するTV番組を見て興味を持ち、先般現地を訪れ英霊に手を合わせました。その後調べていて気がついたのですが、4基あるべき滑走台(スリップ)のうち1基が埋めたてられていて、このすぐ南側にあるK社(工場)の埋め立て桟橋として利用されているようです。
もしそちらでご存じでしたら現状と経緯を教えてほしい。」

香川県西讃土木事務所)K氏(以下 K氏):「県が管理者です。県が埋め立てしあの施設(桟橋)を作りました。それを三豊市が使用者(K社)から使用料を徴収しています。」

三豊市は県から委託を受けて使用料徴収しているということだと思われます。

K氏の口ぶりからは、企業から使用料を徴収して管理しているので、なんら問題はないと言いたかったように思われましたが・・

私:「この滑走台が土木学会選奨土木遺産であったことはご存じですか?」

K氏:「うっすらとは知っています。」

私:「この土木学会選奨土木遺産は、後世に残すべき遺産として認められたものであり、応募にあたっては施設管理者の同意書が必要となっています。 今のお話では、施設管理者は県であり、かたや後世に残すべきとして同意しておきながら、その一方でこのような遺産を破壊するのはおかしくないですか。 

また仮に積出桟橋を作るにせよ、この貴重な遺産は埋立てず、そこを避けて作ればよかっただけなのに・・。 滑走台を基礎にすることによって、安易に埋め立て工事を安くあげようとしか思えませんが、いかがなんでしょう?」

埋立てた理由がいかに安直なものだったのか疑ってしまいます。
またこれらのことが、特攻で散っていった英霊への冒涜のように思われ、激しい怒りを覚えました。

このあとK氏からは、自分は現状の事しかわからない。 埋め立てられた詳しい経緯等については前々人者のヒヤリングや、過去の台帳を調べないとわからないということでした。

安易な回答はできないと思ったのか、本庁(県)主管課)と協議したうえで回答するとのお返事をいただきました。

いろいろ調べていくとさらに疑問がわき、この数時間後、再度K氏に電話を入れました。

私:「埋立てて作られた桟橋は、”行政財産” なのか ”普通財産” なのか?」

K氏:「あそこは海ですよ! あの桟橋は県の所有物です。」

的を得ないK氏の回答には少々こちらが戸惑ってしまいました。

私: 「海ならば 国民共有の財産ということですよね。 その上に 一企業のための桟橋を県が作るのは 腑に落ちませんが・・・」

K氏:「・・・」

私:「いずれにせよ 先の質問とあわせて、この桟橋が ”行政財産” なのか ”普通財産”なのかも ご回答ください」

*”行政財産”、”普通財産” については後述します。 


これらの話をうけ、新たな問題が浮かび上がってきました。

2)法律的問題

上記のことから、香川県がこの施設管理者であることがわかりました。

そこでクローズアップされるのが、これらの「埋め立て~桟橋の使用」にあたって、違法性がないかということです。

県)K氏は、埋立てた地=滑走台(スリップ)の場所は、”海” という認識でした。

国民共有財産の海を埋立てし、使用料を徴収してはいるものの、県が一民間企業の積出桟橋を作る事に違法性がないのか。

またその使用料は、適正なものなのか。

いろいろネットでも港湾法、公有水面埋立法、地方自治法を調べてみましたが、法律の勉強をしていない私には難しすぎて・・・(^^;

なので5月24日(火)、国土交通省港湾局に問合せてみました。

私: 「県が海を埋め立てて一民間企業用の桟橋を作り、貸付をおこなうことに違法性はないのでしょうか? また、民間企業に貸付をおこなう場合、普通財産でなければできないと思いますが、行政財産の公共用財産である海を埋め立てて、普通財産にすることは可能なのでしょうか。」

(補足)
公有財産は、行政財産と普通財産に分類されます。
行政財産は、公共団体の庁舎等の公用財産と河川・港湾施設等の公共用財産にわかれます。
普通財産とは、行政目的に使用しなくなった庁舎や、旧軍の財産他。

地方自治法によると、行政財産は民間企業に貸し付け等は行えず、貸付できるのは普通財産に限られています。


国交省港湾局のS氏。 「すぐわからないので、調べてお答えいたします。」

しばらくしてご連絡をいただきました。

S氏:「港湾の計画時において計画書が必要となります。 その際に桟橋の使用目的に 相応の事が書かれていて認可を受けたものであれば違法性は問えません。 当然 その計画書には、使用にあたって適正な使用料や金利分が書かれていることになります。 また計画書には処分計画書も必要であり、桟橋として使用された後の具体的な処分方法も求められています。

また海は国民共有の公共財産ですが、この港湾計画の認可を受けた時点で県の所有物になります。 県がこの段階で普通財産にすることも違法性はありません。」

というものでした。
S氏のとてもわかりやすく丁寧な回答に、ただただ感謝です。

進出企業への便宜供与と思われかねない行政の対応も、現状に則した適正な計画書のとおりの埋立桟橋であれば、手続き上問題はなさそうな事はわかりました。 ただそこに書かれた計画とその承認行為が、公共性を鑑み適正なものであるかどうかは、計画書を精査しなければなんとも言えないところです。

また今般、国の方針として 貸付している普通財産は民間企業への払い出しを促進しています。  もし払い下げられたとしたら、もうこの貴重な遺産は戻ってはきません。


これらの事を総じて考えると、やはり 後世に残すべき このような大切な遺産を、安易に埋立ててしまった所業に 怒りを覚えてしまいます。

価値観が異なる人からすると冒涜の基準が異なるため一概には言えませんが、この埋立問題は、私にはこの地から飛び立ち お国のためにと散っていった英霊に対する冒涜と思えてしかたありません。


皆さんは、どう思われますか?

ちなみに、5月24日現在 県からの回答はまだありません。

*これらの事を広く知ってもらいたいために、この記事および続編記事に関しては、私への事前承認無しで、ご自身のSNS媒体に当該関連記事のURL等のリンクを貼っていただいて結構です。