前回記事の続きです。

前回記事でも触れましたが、AIS:エアインダクションシステムとは、「未燃焼ガスに対し再度排気ポートにエアを流し、燃焼させて有害物質を抑制するシステム」程度しか知らなかった私。(^^;

巷では、「AISをキャンセルするとエンジンレスポンスが上がる」とか、「アフターファイアが起こるのはAISが原因」とか書かれている情報がごまんとありました。

はたして本当なのでしょうか?
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それではセローのAIS:エアインダクションシステムの仕組み/メカニズムについて、お勉強したことを、自分がさらに理解を深めるために説明します。


なにせネット上には、エアインダクションシステム内を構成する重要な二つのバルブ、すなわちエアカットバルブとニードルバルブの両方の動きが説明がされているものが見つけられなかったので、かなり手こずりました。(^^;

(AISをエアカットバルブの制御だけで片付けられているWEBサイトもひとつやふたつだけでなかったりして・・ σ(^_^;)アセアセ )


*AISのメカニズムは、AIS内のエアカットバルブとニードルバルブがどのような状況でどうなるのかわからないと、理解することは不可能だと思います。 ハイ!



AI(エアインダクション)システムのメカニズム

1.エアカットバルブとリードバルブの状態


1)通常時のエアカットバルブとリードバルブの状態

2025-06-16AIシステムメカニズム通常時図01

【エアカットバルブ】・・・開いている

【リードバルブ】・・・閉じているか、ごくわずかに開いている状態

-説明-
エンジンがアイドリングなど負荷が小さい時、排気圧力が比較的一定で、排気ポートの負圧も弱いため、リードバルブを開くほどの強い負圧は発生しない。

よって、リードバルブは閉じているか、ほとんど動作していない。⇒空気はあまり流れ込まない状態。


2)減速時のエアカットバルブとリードバルブの状態

2025-06-16AIシステムメカニズムⅡ減速時図01
【エアカットバルブ】・・・閉じている

 減速時にはエンジンブレーキがかかり、負圧が高まるため、アフターファイアを防ぐ目的でエアカットバルブは閉じられ、外気が入らないようになる。

【リードバルブ】・・閉じたまま、もしくは開いても空気が通らない

排気ポート側に強い負圧(サージ)が発生するため、リードバルブは開こうとする。 しかし、エアカットバルブが閉じているため、空気の流れ自体が断たれており、リードバルブも実際には開くことができない(または開いても空気は流れない)状況になる。
↓↓↓
理論上:リードバルブは開こうとする
実際:エアの流れが遮断されているため、実質的には閉じたまま、もしくは開いても空気が通らない

補足情報:
エアインダクションシステムのリードバルブは、逆流を防止するチェックバルブとしての役割があるため、排気ガスの圧力で空気が逆流しないように常時閉じる方向にバネ圧がかかっている。

AISは、排気側に負圧がかかり、かつエアカットバルブが開いているときだけ、リードバルブが開いて空気が吸い込まれる仕組みです。

*減速時においても、パーシャル状態が発生した際はエアカットバルブが開くタイミングがあります。その際は、リードバルブも断続的に開閉し、間欠的に排気ポートにエアが吸入されることがあります。詳しくは本記事の末尾参照。


3)加速時のエアカットバルブとリードバルブの状態

2025-06-16AIシステムメカニズムⅢ加速時図01

【 エアカットバルブ】・・・開いている
加速時はスロットルが開いており、エンジンが多くの空気と燃料を吸い込んで出力を上げている状態。

このとき、エアカットバルブには十分な負圧がかからないため、バルブは開いた状態になっている。

よって、大気中の空気がエアインダクションシステムを通じて排気ポート側に供給される可能性がある状態になっている。

【リードバルブ】・・・開く可能性が高い
加速時、燃焼ガスの流れが強くなり、排気系には一時的に負圧が発生するタイミングがある。

特に、排気バルブが閉じる直前や排気流の速度変化により、エアインダクションポート側に吸引力が働くタイミングがある。

このタイミングで、リードバルブが開き、空気が排気ポートに導入される可能性がある。

<注意点>
高負荷時は排気ポートの圧力が高いため、リードバルブが開くタイミングは限定的(ずっと開いているわけではない)。

リードバルブは排気の脈動に応じて断続的に開閉する。


上記のとおり、状況に応じてエアカットバルブとリードバルブの開/閉がおこなわれます。


上記内容を理解するには、以下のエアカットバルブとリードバルブの開/閉のメカニズムを理解する必要があります。
(説明の順番が前後 逆になったかもしれません。ごめんなさい。)


2.エアカットバルブに負圧が発生し、エアカットバルブが閉まるメカニズム
1)エアカットバルブの構造と役割
エアカットバルブ(エアカットバルブアセンブリ)は、インシュレーター(インテークマニホールド)の負圧を利用して動作するダイヤフラム式の制御バルブです。 

主に減速時のアフターファイア防止が目的。

2) 負圧発生のメカニズム
 減速時(スロットル閉じ)、ライダーがスロットルを急に戻す(閉じる)と、スロットルバルブが閉じてエアの流入が絞られる。 

しかしピストンの動作は続いており、シリンダー内では吸引動作が起こる。

よって、インシュレーター(インテークマニホールド)内に強い負圧が発生する。

この負圧が、負圧ホースを通じてエアカットバルブのダイヤフラムを引っ張る。

ダイヤフラムが引かれると、エアバルブが閉じて空気の流入を遮断する。

この結果、排気側への空気供給が止まり、アフターファイアを防止する。


3.リードバルブの負圧の発生メカニズム
1)リードバルブの役割
リードバルブは逆流防止弁の役割。

排気ポート側に取り付けられており、排気系に負圧があるときだけ外気を吸い込むようにできている(AIS経由)。

2) リードバルブに負圧がかかる状況
- 排気脈動による負圧の発生-
エンジンが動作すると、排気バルブの開閉とピストンの動作によって、排気管内部には排気脈動(波状の圧力変動)が生まれます。

特に排気バルブが閉じた後、排気ポート内で一時的に負圧になる瞬間がある(排気ガスが高速で通過した後の流体力学的な吸引効果)。

この瞬間に、排気ポート側に負圧が発生し、リードバルブが開く。

外気がAIS経由で排気ポートに引き込まれる。

 ※この負圧は「吸気側の負圧」とは性質が異なり、排気脈動による瞬間的な吸引力です。


4.AIS機能が働くタイミング

エアインダクションシステム。未燃焼ガスに対し再度排気ポートへエアを流入させ、燃焼させて有害物質を抑制するシステム。

*注:ここでは燃焼という言葉を使っていますが、この「燃焼」という言葉が多くの人に誤解を与えています。以後の記事でこの事について触れます。)


前述の内容を理解すれば、この機能=AIS:エアインダクションシステムが働くタイミングの回答は・・

エアインダクションシステム(AIS)が機能するタイミングは、「エアカットバルブ」と「リードバルブ」の両方が開いているときに限られます。

このため、よく言われる「減速時にAISが働く」という表現は、アフターファイヤーが減速時に多く発生するという現象に起因した誤解であり、AISの構造・メカニズム的には正確ではありません。

AISの基本構造では、以下の2つの条件が揃ったときにのみ、排気ポートへ外気(新鮮な空気)が流入します。

・エアカットバルブに負圧がかかっていない(=エアカットバルブが開いている)
かつ
・排気ポート側に排気脈動による負圧が発生している(=リードバルブが開く)


一方、減速時はスロットルバルブが閉じ、インシュレーター(インテークマニホールド)内に強い負圧が発生します。この負圧によってエアカットバルブが閉じるため、たとえ排気ポートに負圧があっても空気の流入経路は遮断され、リードバルブの先に空気が供給されません。 (←*この部分の理解がされておらず間違った情報が散見されます。)

実際のライディングでは、「常に加速」「常に減速」といった単純な状態は少なく、加減速やパーシャルスロットルを繰り返す状態が多く見られます。
そのため、パーシャル(軽くスロットルが開いている)状態などにおいて、エアカットバルブとリードバルブが同時に開くタイミングが断続的に発生し、排気ポートへの空気流入も瞬間的・間欠的に行われるのが実情です。

これが、エアインダクションシステムの基本的な動作メカニズムです。


それでは、この内容の理解を深めるために、おさらいの意味も含めて、深堀していこうと思います。

-続くー


*キャブレター車におけるエアインダクションシステム(AIS)の説明です。