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バッテリーと充電器のお話「Ⅱ章 7.劣化原因から導かれる対策」

前回記事「Ⅱ-6.温度・熱サイクルによる加速劣化」の続きです。



<もくじ>
Ⅰ章 鉛バッテリーの構造
 1.バッテリーの構造概要
 2.極版について
   1)グリッド(格子)とは
   2)活物質(Active Material)とは
 3.セパレーターの構造と役割

Ⅱ章  鉛バッテリーが劣化する原因とそのメカニズム
 
1.サルフェーション(硫酸鉛PbSO₄の蓄積・結晶化・粗大化)
   1)サルフェーションの概要
   
2)サルフェーションの発生メカニズム
   
3)電圧が高いとサルフェーションが起きにくい理由

 2.グリッド(格子)の腐食・酸化(Ⅰ章と一部重複)
   1)
グリッド(格子)とは
   2)グリッド(格子)の主な役割
   3)材質と製造技術
   4)劣化との関係

 3.活物質の剥離・脱落(Ⅰ章と一部重複)
   1)活物質(Active Material)とは
   2)活物質(ペースト)の構成と役割
   3)ペーストの組成と製造
   4)活物質の反応メカニズム(放電時)
   5)活物質の劣化
   
 4.電解液の劣化・減少(電解質劣化)
        
1)電解液とは?
        
2)劣化・減少の主なメカニズム
        
3)対策のポイント

      4)硫酸濃度(比重)がバッテリーに与える影響


 5.セパレーター劣化とそのメカニズム
   1) セパレーター孔(ポア)の詰まり(Pore Blocking)
   2)セパレーターの酸化劣化(主に正極側)
   3) セパレーターの熱劣化・熱収縮
   4)活物質の脱落によるショートリスク増大(底部堆積物)
   5)セパレーターの極板密着性の変化(乾燥化)
   6)経年劣化での微小クラック・ピンホール
   7) どの極板を袋状セパレーターで包むかは“メーカーの設計思想で異なる”
   8)まとめ:セパレーターの劣化はバッテリー寿命の“最後の砦”

 6.温度・熱サイクルによる加速劣化
   1)化学反応速度の加速 
   2)電解液の蒸散・乾燥
   3)熱膨張・収縮による機械的ストレス
   4)過充電が起きやすくなる
   5)熱暴走(thermal runaway)のリスク増加
 
 7.劣化原因から導かれる対策

Ⅲ章 国産GSユアサ、台湾ユアサ、安価な中華バッテリーの違い


Ⅳ章 バッテリー充電器の違い

Ⅴ章 その他


・・徐々に書き上げていく予定なので、”もくじ”の内容は後日修正が入る可能性があります。



Ⅱ-7.劣化原因から導かれる対策


 Ⅱ章では、「鉛バッテリーが劣化する原因とそのメカニズム」について解説しました。
劣化の仕組みを理解することは、バッテリーをより長く使い続けるための実践的な対策を取ることにつながるだけでなく、バッテリー選びの判断基準を明確にするという重要な意味を持つものと考えます。

 ここではⅡ章を踏まえ、劣化原因から逆算した実際的な対策 をまとめます。

1)サルフェーション(硫酸鉛の結晶化・硬化)を抑える
<対策>
(1)低電圧状態での放置を避ける(深放電をさせない)
 ・開放電圧12.4V以下の状態を避ける。
 ・理想は 12.6V以上 を維持すること。

(2)過充電を避ける
 ・バッテリーの種類(MF/VRLA/開放型)に適合した充電器を使用する。
 ・安価な過充電しやすい充電器は避ける。

(3) サルフェーションに強い高品質バッテリーを選ぶ
 ・高純度鉛・適切なペースト添加剤・均質なグリッドを使用した製品ほど、サルフェーションに対する耐性が強い。

(4)初期のサルフェーション段階で進行を止める
 ・開放電圧12.6V以上を維持して、硫酸鉛が硬化する前に戻せる状態に保つ。
 ・電解液濃度の維持(過充電を避ける、開放型は適切に補水)。

※硫酸濃度が高すぎても低すぎてもサルフェーションリスクは増える。


2)グリッド(格子)の腐食・酸化を抑える
<対策>
(1) 過充電を避け、酸素発生量を抑える
 ・過充電はグリッド腐食を加速する最大要因のひとつ。

(2) 高温環境を避ける
 ・高温は腐食速度と自己放電を劇的に加速する。
 ・現実には完全回避は難しいが、「夏季の直射日光下での極端な放置」を避けるだけでも効果あり。

(3) 低品質バッテリーを避ける
 ・低純度鉛合金は腐食が早く、グリッドが痩せやすい。
 ・高品質なグリッド(高純度Ca合金など)を採用したバッテリー を選ぶことが有効。


3)活物質(ペースト)の劣化を抑える
<対策>
(1) サルフェーションの抑制(前項と同じ)
 ・硫酸鉛の結晶化は活物質の硬化・脆化に直結する。

(2) 乾燥・剥離を防ぐため、電解液の減少を防止
 ・過充電は電解液減少→活物質乾燥→剥離につながる。
 ・急速充電・急速放電を繰り返す使い方もペーストを傷める。

(3)振動を軽減する
 ・バイクの場合は困難・・・。
 ・高性能な足回りパーツ??(^^; 現実性?

(4) 活物質品質(ペースト品質)の良いバッテリーを使用する 
 ・粒度の均一性
 ・適切な膨張材・導電材の配合
 ・ペースト密着性
 これらは寿命に大きく影響するため、品質差が出やすい。


4)適正な硫酸濃度(比重)を保つ
<対策>
(1)過充電による電解液減少を避ける(VRLAでも同様)
 ・電解液減少は硫酸濃度変化 → サルフェーション・グリッド腐食・活物質乾燥の全てを悪化させる。

(2) 開放型バッテリーは適切に補水する
 ・補水不足は比重上昇 → 腐食促進
 ・補水しすぎは比重低下 → 始動性悪化

(3)適正比重かつ耐久性の高いバッテリーを選ぶ
 ・始動性に優れる比重(1.27〜1.28)
 ・グリッド合金の耐腐食性
 ・ペースト保持力
 これらを備えた高品質バッテリーは寿命が長い。


<総括>
 最後に、鉛バッテリーの劣化要因は相互に関連しているため、一つの対策ではなく複数の対策を組み合わせて管理することが重要だと考えます。
 特に「電圧管理」「過充電防止」「品質の良いバッテリー選び」の3つは、ユーザー側で最も効果が高い対策です。


-続く-

ps:本記事は自分の知識向上のために調べて作成したものです。 間違い等もあるかもしれません。ご承知おきください。

2025-11-17バッテリーと女性01z




バッテリーと充電器のお話「Ⅱ章 6.温度・熱サイクルによる加速劣化」

前回記事「Ⅱ-4.電解液の劣化・減少(電解質劣化)」の続きです。



<もくじ>
Ⅰ章 鉛バッテリーの構造
 1.バッテリーの構造概要
 2.極版について
   1)グリッド(格子)とは
   2)活物質(Active Material)とは
 3.セパレーターの構造と役割

Ⅱ章  鉛バッテリーが劣化する原因とそのメカニズム
 
1.サルフェーション(硫酸鉛PbSO₄の蓄積・結晶化・粗大化)
   1)サルフェーションの概要
   
2)サルフェーションの発生メカニズム
   
3)電圧が高いとサルフェーションが起きにくい理由

 2.グリッド(格子)の腐食・酸化(Ⅰ章と一部重複)
   1)
グリッド(格子)とは
   2)グリッド(格子)の主な役割
   3)材質と製造技術
   4)劣化との関係

 3.活物質の剥離・脱落(Ⅰ章と一部重複)
   1)活物質(Active Material)とは
   2)活物質(ペースト)の構成と役割
   3)ペーストの組成と製造
   4)活物質の反応メカニズム(放電時)
   5)活物質の劣化
   
 4.電解液の劣化・減少(電解質劣化)
        
1)電解液とは?
        
2)劣化・減少の主なメカニズム
        
3)対策のポイント

      4)硫酸濃度(比重)がバッテリーに与える影響


 5.セパレーター劣化とそのメカニズム
   1) セパレーター孔(ポア)の詰まり(Pore Blocking)
   2)セパレーターの酸化劣化(主に正極側)
   3) セパレーターの熱劣化・熱収縮
   4)活物質の脱落によるショートリスク増大(底部堆積物)
   5)セパレーターの極板密着性の変化(乾燥化)
   6)経年劣化での微小クラック・ピンホール
   7) どの極板を袋状セパレーターで包むかは“メーカーの設計思想で異なる”
   8)まとめ:セパレーターの劣化はバッテリー寿命の“最後の砦”

 6.温度・熱サイクルによる加速劣化
   1)化学反応速度の加速 
   2)電解液の蒸散・乾燥
   3)熱膨張・収縮による機械的ストレス
   4)過充電が起きやすくなる
   5)熱暴走(thermal runaway)のリスク増加
   6)まとめ

Ⅲ章 国産GSユアサ、台湾ユアサ、安価な中華バッテリーの違い

Ⅳ章 バッテリー充電器の違い

Ⅴ章 その他


・・徐々に書き上げていく予定なので、”もくじ”の内容は後日修正が入る可能性があります。



Ⅱ-6.温度・熱サイクルによる加速劣化

 鉛バッテリーは「低温に弱い」というイメージがありますが、寿命を縮める最大の要因は高温です。

 高温・熱サイクル(高温→冷却→再加熱)によって起こる劣化は、以下の 5 つのメカニズムでほぼ説明できます。

1)化学反応速度の加速 → 腐食・サルフェーション・自己放電が増加
 化学反応は温度が10℃上がると、反応速度が約2倍になると言われます。(←*Q10則、または「ファントホッフの法則」 とも呼ばれる経験則)

つまり、
・20℃ → 30℃:劣化速度 約2倍
・20℃ → 40℃:劣化速度 約4倍
・20℃ → 50℃:劣化速度 約8倍

これにより、

①正極グリッドの腐食が急速に進む(寿命の本丸)
 高温ほど、正極の PbO₂ と電解液の酸性環境で、<格子(金属グリッド)が腐食 → 細る → 割れる> 速度が急上昇。

・・ほぼ全ての鉛バッテリー寿命の「最終原因」はこれ。

②サルフェーション( PbSO₄ 結晶化)の進行が加速
 高温であっても放電状態で放置されたり、不完全充電が続いたりすると、結晶が巨大化・硬化しやすい。

特に熱サイクルで、
結晶→膨張(高温)
冷却→結晶固化(低温)
の繰り返しにより 結晶が硬く育つ → 回復困難に。

③自己放電(勝手に電圧が落ちる)が増える
 高温ほど電子移動が活発になるため、自己放電速度が増加。
結果、
高温の車両・バイク → 数日放置で電圧が目に見えて下がる
夏場に突然バッテリー上がりが多い
という現象が起きる。


2)電解液の蒸散・乾燥 → 液量低下 → 極板の露出・劣化加速
 温度が高いほど電解液(希硫酸)の蒸気圧が上がり、蒸散またはガス化が増える。
VRLA(密閉型)でも内部で水が分解し、再結合しきれない分は 微量ながら失われていく。

その結果:
① AGM・PEセパレーターが乾燥 → 負極が「乾き気味」に。
負極の硫酸イオン移動が悪化
内部抵抗上昇
容量低下
過充電時の温度上昇 → さらに乾燥 → 悪循環

② 電解液量の低下 → 極板の上部が露出 → 酸化・崩壊 (開放型だと典型例。)


3)熱膨張・収縮による機械的ストレス → 極板・セパレーターが疲労

バッテリー内部は運転中と停止時で、
30〜60℃(エンジンルーム)
10〜40℃(外気)
のように温度変動(熱サイクル)を受け続ける。

⇒<その結果>
① 極板ペーストが膨張収縮 →「剥離・脱落(シェディング)」
 特に正極活物質 (PbO₂) は硬く、熱サイクルに弱いため振動と合わせてどんどん剥がれる。

② セパレーターが膨張~収縮を繰り返す
 → 微細孔の変形・疲労・硬化

 グリッド(格子)が疲労 → 微細なクラック
 特に正極グリッドの酸腐食と合わさると、クラックから一気に腐食が進行して折損へ。


4)過充電が起きやすくなる → 温度上昇の“悪循環”が発生

◇バッテリーの内部温度が上がると、
 ・内部抵抗が下がる
 ・充電電流が流れやすくなる
→ 結果として「過充電気味」になりやすい。

◇過充電になると、
電解液の電気分解(H₂/O₂発生)
水分減少(ドライアウト)
正極グリッド腐食の加速
負極の乾燥・硫酸鉛付着
という連鎖が一気に進む。

☆VRLAバッテリーが高温に弱い理由のひとつ。


5)熱暴走(thermal runaway)のリスク増加
 特に VRLA(密閉型)では、
温度上昇 → 内部抵抗↓ → 充電電流↑
充電電流↑ → 発熱↑ → 温度↑
温度↑ → さらに内部抵抗↓
という「負のフィードバック」が起きやすく、温度上昇が止まらなくなる危険がある。

これはバイク・車より UPS(無停電電源)などで顕著だが、車両でも高温下で似た現象が起こり得る。


6)
まとめ
高温は、バッテリー内部のすべての劣化反応を“加速スイッチ”のようにオンにする。

熱サイクルは、
部材(極板・格子・セパレーター)に“疲労”を蓄積させる。

この2つの組み合わせで、
鉛バッテリーは急速に寿命を縮めます。

以上
                               
-続く-

ps:本記事は自分の知識向上のために調べて作成したものです。 間違い等もあるかもしれません。ご承知おきください。

2025-11-16暑いくまもんバッテリー




 

バッテリーと充電器のお話「Ⅱ章 5.セパレーター劣化・孔詰まり」

前回記事「Ⅱ-4.電解液の劣化・減少(電解質劣化)」の続きです。



<もくじ>
Ⅰ章 鉛バッテリーの構造
 1.バッテリーの構造概要
 2.極版について
   1)グリッド(格子)とは
   2)活物質(Active Material)とは
 3.セパレーターの構造と役割

Ⅱ章  鉛バッテリーが劣化する原因とそのメカニズム
 
1.サルフェーション(硫酸鉛PbSO₄の蓄積・結晶化・粗大化)
   1)サルフェーションの概要
   
2)サルフェーションの発生メカニズム
   
3)電圧が高いとサルフェーションが起きにくい理由

 2.グリッド(格子)の腐食・酸化(Ⅰ章と一部重複)
   1)
グリッド(格子)とは
   2)グリッド(格子)の主な役割
   3)材質と製造技術
   4)劣化との関係

 3.活物質の剥離・脱落(Ⅰ章と一部重複)
   1)活物質(Active Material)とは
   2)活物質(ペースト)の構成と役割
   3)ペーストの組成と製造
   4)活物質の反応メカニズム(放電時)
   5)活物質の劣化
   
 4.電解液の劣化・減少(電解質劣化)
        
1)電解液とは?
        
2)劣化・減少の主なメカニズム
        
3)対策のポイント

      4)硫酸濃度(比重)がバッテリーに与える影響


 5.セパレーター劣化とそのメカニズム
   1) セパレーター孔(ポア)の詰まり(Pore Blocking)
   2)セパレーターの酸化劣化(主に正極側)
   3) セパレーターの熱劣化・熱収縮
   4)活物質の脱落によるショートリスク増大(底部堆積物)
   5)セパレーターの極板密着性の変化(乾燥化)
   6)経年劣化での微小クラック・ピンホール
   7) どの極板を袋状セパレーターで包むかは“メーカーの設計思想で異なる”
   8)まとめ:セパレーターの劣化はバッテリー寿命の“最後の砦”

 6.温度・熱サイクルによる加速劣化

Ⅲ章 国産GSユアサ、台湾ユアサ、安価な中華バッテリーの違い

Ⅳ章 バッテリー充電器の違い

Ⅴ章 その他


・・徐々に書き上げていく予定なので、”もくじ”の内容は後日修正が入る可能性があります。




Ⅱ-5.
セパレーター劣化とそのメカニズム

 セパレーター(Separator)は、鉛バッテリー内部で正極板(PbO₂)と負極板(Pb)を直接接触させないための絶縁材であり、同時にイオンのみを通過させる電気化学反応の窓口として機能する極めて重要な部材である。

 主要材料は多孔質のポリエチレン(PE)またはガラスマット(AGM)であり、鉛バッテリー設計の中でも寿命と性能を大きく左右する要素のひとつである。

2025-11-15セパレーター02z

 セパレーターが劣化するメカニズムは複数あるが、特に鉛バッテリー特有の硫酸鉛(PbSO₄)生成、グリッド腐食、活物質脱落、熱、電解液変質と密接に関連している。

以下、その代表的なメカニズムを体系的にまとめる。

1) セパレーター孔(ポア)の詰まり(Pore Blocking)
(1)メカニズム
 ◆放電時、正負極では 硫酸鉛(PbSO₄)が生成される。
 ◆この硫酸鉛が微粒子として剥がれると、セパレーターの細孔に入り込み”詰まり”を起こす。
 ◆特に深放電を繰り返すと、硫酸鉛の粒子が粗く硬くなり、より詰まりやすい。

(2)影響
イオンの通り道が阻害される。
 → 内部抵抗が上昇
 → 始動性能低下
 → 充電受け入れが悪くなる(充電効率低下)
 → 過充電気味になり、さらに劣化が加速

(3)要点
孔詰まりはバッテリーの「反応速度低下」の主要因で、寿命末期の“セルが元気がない”症状の多くはこれが原因。


2)セパレーターの酸化劣化(主に正極側)
(1)メカニズム
 ◆正極(PbO₂)は非常に強い酸化剤であり、セパレーターに最も大きなダメージを与える。
 ◆高温環境、過充電、電解液比重上昇は正極の酸化力をさらに強める。

(2)影響
 ◆セパレーターが硬化、脆化
 ◆多孔構造の崩壊
 ◆微細な絶縁性の低下

⇒最終的には、<セパレーターの“酸化穴あき” → 内部短絡(セルショート)>という致命的故障につながる。


3) セパレーターの熱劣化・熱収縮
(1)メカニズム
 ◆過充電・高温環境(夏場、エンジン周辺、密閉空間)でPEセパレーターは軟化 → 収縮する。
 ◆収縮すると極板との間に「接触リスク」が高まる。

(2)影響
 ◆局部的な短絡
 ◆内部抵抗の急上昇
 ◆急激な容量低下

(3)要点
高温はセパレーター劣化要因の中で最も破壊力が大きい。


4)活物質の脱落によるショートリスク増大(底部堆積物)
(1)メカニズム
 ◆正極または負極の活物質(ペースト)が剥がれる
 ◆セパレーターの外側に落ちて底に堆積
 ◆セパレーターの縁部を越えて極板間を橋渡しする形でショートすることがある

特に・・
 ◆正極の腐食
 ◆負極の硫酸鉛粗大化
は 脱落の主原因である。

(2)袋状セパレーターが多くに使用される理由
 袋状(エンベロープ)セパレーターは脱落物を包み込むことで、内部ショートを大幅に低減する。


5)セパレーターの極板密着性の変化(乾燥化)
(1)メカニズム
 ◆長期間の過放電
 ◆電解液比重低下
 ◆電解液蒸発
⇒これによりセパレーターが十分に電解液を保持できなくなる。

(2)影響
 ◆反応面積が減少
 ◆内部抵抗上昇
 ◆充電受け入れがさらに悪化
 ◆深放電悪循環へ

6)経年劣化での微小クラック・ピンホール
(1)メカニズム
経年により以下が進む。
 ◆酸化
 ◆イオン衝突
 ◆温度サイクル
 ◆グリッド腐食生成物との接触

⇒これらによりセパレーターにピンホール(微小な穴)が発生することがある。

(2)影響
 ◆微小短絡(セルバランス崩壊)
 ◆自己放電増加
 ◆セル電圧低下

⇒セル劣化の典型症状である。 1セルだけ電圧が極端に低い現象はこれが多い。


2025-11-15セパレーター劣化進行症状01


7) どの極板を袋状セパレーターで包むかは“メーカーの設計思想で異なる”
①一般的(世界標準)
・・正極(PbO₂)を袋状で包む。 もっとも腐食・脱落・ショートリスクが高いため。

②一部の韓国・中国メーカー
・・負極(Pb)を袋状で包む場合がある
(理由)
・負極の硫酸鉛粗大化・脱落対策
・深放電耐性向上
・サイクル寿命重視
・生産ラインの合理化
→ 深放電気味の環境(寒冷地、短距離走行)に強い設計。


8)まとめ:セパレーターの劣化はバッテリー寿命の“最後の砦”
 鉛バッテリーの寿命は、サルフェーション + グリッド腐食 + セパレーター劣化の三位一体で決まる。

特にセパレーターは、
・イオン通過の効率
・内部抵抗
・ショートリスク
・充電受け入れ
・サイクル寿命
のすべてに関与する中枢部品であり、バッテリー内部劣化の“最後の砦”と言える。

以上

次は「Ⅱ-6.
温度・熱サイクルによる加速劣化」です。

-続く-


ps:本記事は自分の知識向上のために調べて作成したものです。 間違い等もあるかもしれません。ご承知おきください。


2025-11-15バッテリー充電

 

バッテリーと充電器のお話「Ⅱ章 4.電解液の劣化・減少(電解質劣化)」

お出かけから帰ってきました。

少々無理があったのか、またまた腰の椎間板ヘルニアが出かかっている症状が・・('A`|||)マズイゾ・・


それでは、前回記事「(補足)格子(グリッド)形状/厚みが、電流分布や内部抵抗に影響するメカニズム」の続きです。



<もくじ>
Ⅰ章 鉛バッテリーの構造
 1.バッテリーの構造概要
 2.極版について
   1)グリッド(格子)とは
   2)活物質(Active Material)とは
 3.セパレーターの構造と役割

Ⅱ章  鉛バッテリーが劣化する原因とそのメカニズム
 
1.サルフェーション(硫酸鉛PbSO₄の蓄積・結晶化・粗大化)
   1)サルフェーションの概要
   
2)サルフェーションの発生メカニズム
   
3)電圧が高いとサルフェーションが起きにくい理由

 2.グリッド(格子)の腐食・酸化(Ⅰ章と一部重複)
   1)
グリッド(格子)とは
   2)グリッド(格子)の主な役割
   3)材質と製造技術
   4)劣化との関係

 3.活物質の剥離・脱落(Ⅰ章と一部重複)
   1)活物質(Active Material)とは
   2)活物質(ペースト)の構成と役割
   3)ペーストの組成と製造
   4)活物質の反応メカニズム(放電時)
   5)活物質の劣化
   
 4.電解液の劣化・減少(電解質劣化)
        
1)電解液とは?
        
2)劣化・減少の主なメカニズム
        
3)対策のポイント

      4)硫酸濃度(比重)がバッテリーに与える影響


 5.セパレーター劣化・孔詰まり
 6.温度・熱サイクルによる加速劣化

Ⅲ章 国産GSユアサ、台湾ユアサ、安価な中華バッテリーの違い

Ⅳ章 バッテリー充電器の違い

Ⅴ章 その他


・・徐々に書き上げていく予定なので、”もくじ”の内容は後日修正が入る可能性があります。




Ⅱ-4.電解液の劣化・減少(電解質劣化)


1)電解液とは?
 鉛バッテリーの電解液は、硫酸(H₂SO₄)と水(H₂O)の混合液で構成されています。
この液体は、正極(PbO₂:二酸化鉛)と負極(Pb:鉛)の間でイオン(H⁺:水素イオン・SO₄²⁻:硫酸イオン)を移動させる“電気の橋渡し”役をしています。


2)劣化・減少の主なメカニズム

(1) 水分の蒸発・電解分解
 過充電または高温になると、充電反応の一部が以下のように「水の電気分解」に使われてしまいます。・・2H2O2H2+O2

これを詳しく書くと・・

鉛バッテリーは、過充電時の最終段階で以下のような反応が起きます。

①正極では:2H2OO2+4H++4e−   ・・酸素ガスが発生(↑)

②負極では:4H++4e−→2H2​↑      ・・水素ガスが発生(↑)


・水が水素ガス(H₂)酸素ガス(O₂)に分解されて放出される。 結果として水分が減少し、硫酸濃度が上昇する。

 ⇒硫酸濃度が上がると・・
イオン移動が不安定になり、内部抵抗が上昇する。(*注1)
セルごとに濃度差が生まれ、電圧の不均衡を招く。

(注1・・「硫酸濃度が上がると、内部抵抗が上昇する。」 一見間違っているようですが、正しい事象でした。 末尾の項にてこのメカニズムを補足します。)


(2)ガスの発生による“酸ミスト”漏れ
 特にVRLA(密閉型)では、ガスは内部で再結合する設計になっています(O₂ + H₂ → H₂O)。
しかし内部圧力が上がると安全弁が開き、酸ミスト(硫酸微粒子+水蒸気)が外部に漏れます。
→ このとき、水分も硫酸も少しずつ失われていく。
→ 端子周辺の腐食や、電解液量の徐々な減少につながります。


(3)硫酸の比重変化・イオン伝導性の低下
 電解液の硫酸比重(通常1.26~1.28)は、電極反応の進行とともに変化します。
放電時:硫酸が電極のPbと反応してPbSO₄:硫酸鉛(II)を生成 → 硫酸が減少(比重低下)
充電時:PbSO₄が分解 → 硫酸が再生成(比重上昇)

しかし、長期使用で水分が減ると、
上層が濃く、下層が薄い → 濃度分布(ストラティフィケーション)が発生
イオン移動が不均一になり、セルの一部が過放電・過充電状態に

これが「セル間不平衡」や「局所サルフェーション」の直接原因になります。

(4) 高温環境による化学的劣化
 温度上昇は、電解液の蒸気圧と化学反応速度を高めます。
40℃以上では水分蒸発速度が急上昇
酸の腐食作用も強まり、格子(鉛合金)の腐食を促進
 
 → 結果、格子腐食+電解液減少が同時に進行

(5) 電解液量低下による副次的劣化
 液面が下がると、極板上部が空気に触れるようになります。 空気に触れた部分は電解反応が起こらず、その部分が乾燥・酸化して反応不能(絶縁化)になります。

→ 有効反応面積の減少
→ 容量低下・内部抵抗上昇
→ 一部セルの過充電化 → サルフェーション悪化


2025-11-10電解液の劣化・減少メカニズム1

2025-11-10電解液の劣化・減少メカニズム2


3)対策のポイント
2025-11-11電解液の劣化減少対策ポイント01



 前述<注1>で「硫酸濃度が上がると、内部抵抗が上昇する」について、一見間違っているようですが正しい事象でした。 次にこのメカニズムを補足します。)

4)硫酸濃度(比重)がバッテリーに与える影響

(1)硫酸濃度の基本
 鉛バッテリーの電解液は 希硫酸(H₂SO₄) で構成されており、一般的に 比重(濃度の目安)1.26〜1.28(25℃) が標準です。

・1.28前後:自動車用・高始動性能型(CCA重視)
・1.26程度:深放電に強いサイクルタイプ(電動車・UPSなど)

(2)
 濃度が高すぎる場合の影響(悪い点)
 硫酸濃度が高い(比重1.30以上) と、
◆活物質(正極のPbO₂)との化学反応が強く進み、腐食(格子の酸化)が早まる。
◆内部温度が上昇しやすく、熱暴走やガス発生を引き起こす。
◆自己放電が増加。
◆電解液が蒸発・減少しやすくなる

⇒ 結果:寿命短縮、過充電に弱くなる

(3)
濃度が低すぎる場合の影響
 硫酸濃度が低い(比重1.20以下) と、
◆放電時の電圧が早く下がり、始動性能が低下。
◆電解液の導電率が下がり、充電効率が悪化。
◆冬季など低温時に電解液が凍結しやすくなる。

⇒ 結果:容量不足、低温始動性が悪くなる

(4) 理想的な硫酸濃度とは
・高濃度:反応性が高く、寿命が短くなる (格子腐食・寿命短縮等)
・低濃度:反応が穏やかで、性能が出にくい (出力不足・凍結リスク等)

したがって、バッテリーの用途別に最適濃度が決まります。

2025-11-11用途別硫酸濃度例01
 ⇒硫酸濃度は、「高いほうが良い」・「低いほうが良い」わけではなく、「適正範囲が大切」。バイク/自動車用バッテリーは、
適正比重(1.26〜1.28)が最も安定し、性能と寿命のバランスが良い。


(5)製造メーカーによる硫酸濃度の違い
 「Ⅲ章 国産GSユアサ、台湾ユアサ、安価な中華バッテリーの違い」と重複する内容ですが、グリッド(格子)、活物質(ペースト)の材質以外の硫酸濃度もメーカーによって違ってきます。

① なぜメーカーによって違うのか?
 バッテリーは「性能重視型」か「寿命重視型」かで設計思想が異なるためです。 硫酸濃度(比重)は、性能・寿命・耐久性のトレードオフを左右するパラメータのひとつ。

2025-11-11設計方針と硫酸濃度比重01

② メーカーごとの傾向(例)

2025-11-14メーカー別硫酸濃度の傾向01

上記表中の値は推定も含まれます。
根拠にした主な情報源は下のとおり。
・JIS D5301 / JIS C8702(鉛蓄電池規格)
・一般的なMF・VRLAバッテリーの標準電解液比重(1.26〜1.30)
・寒冷地向け/高出力向けの比重は高めになるという工業常識
・業務用・研究分野での実バッテリー分解データ
・実ユーザーによる新品バッテリーの比重測定(AGMは滴下による採取記録)
・・これらのデータから、日本製は比重管理が厳密で高め、台湾製は中間、安価な中国製はばらつき多いという傾向は業界で共通認識となっています。


(6)硫酸濃度と内部抵抗の関係
① 電解液の導電率と濃度の関係(基本の化学)
 電解液(希硫酸)の導電性は、主に H⁺(水素イオン) と HSO₄⁻(水素硫酸イオン) の動きで決まります。
・濃度を上げると、最初のうちはイオン数が増えるので導電率も上昇します。
・しかし、ある点を超えるとイオン同士の距離が近づきすぎ、「イオン間の相互作用(干渉)」が増えて動きにくくなる のです。

⇒その結果、導電率はある濃度をピークにして下がり始めます。

②硫酸濃度と導電率の実測関係

2025-11-14硫酸濃度と伝導率の実測関係01
⇒つまり「高すぎる濃度では、イオンが動きづらくなり内部抵抗が上がる」 というわけです。

高濃度の硫酸では・・
・溶液の粘性(粘り気) が上昇し、イオンが移動しにくくなる。
・イオンの移動が遅いと、反応速度が局所的に偏る(セルの一部だけ過反応)。
・結果的に「内部抵抗の不均一化」「局部発熱」「格子腐食加速」が起こる。

③導電率と内部抵抗の関係イメージ図

2025-11-14伝導率と内部抵抗の関係イメージ図01
以上。

次は「Ⅱ-5.セパレーター劣化・孔詰まり」です。

-続く-

ps:本記事は自分の知識向上のために調べて作成したものです。 間違い等もあるかもしれません。ご承知おきください。








































(補足)格子(グリッド)形状/厚みが、電流分布や内部抵抗に影響するメカニズム

前回記事の補足です。

***************************
<前回記事の補足該当箇所:青色部分

Ⅱ-2.グリッド(格子)の腐食・酸化

(2)電流の伝導経路
 活物質全体に均一に電流を流し、反応をセル全体に行き渡らせます。格子形状のパターンや厚みは、電流分布や内部抵抗に大きく影響します。 

***************************

前回記事で「格子(グリッド)形状のパターンや厚みは、電流分布や内部抵抗に大きく影響します。」と、調べたことをそのまま書いてしまいましたが・・・

よく考えてみると、その仕組み(メカニズム)が理解できないまま書いてしまっていました。 

掘り下げて調べてみました。


<補足:格子(グリッド)形状/厚みが、電流分布や内部抵抗に影響するメカニズム>

1.グリッドの役割:電流の“骨格”
 鉛バッテリーのグリッド(格子)は、単なる支持体ではなく、活物質(ペースト)に電流を供給・回収する「導電体」の役割を担っています。

つまり・・
・放電時:活物質中で発生した電子をグリッドが回収して外部回路へ流す
・充電時:外部から供給される電子をグリッドが面全体に分配し、活物質に届ける

この電流の流れ方(=電流分布)に、グリッド形状が大きく影響します。

2.電流分布と格子パターンの関係
 グリッドは「フレーム+枝状(メッシュ)」で構成されていますが、この枝の配置や太さが、電子の通り道の効率を左右します。

2025-11-10グリッド形状の違いによる電流分布例01

2025-11-09グリッド形状例01

⇒格子が「均等に電流を届けられない」と、その部分の活物質が過充電・過放電になり、サルフェーションや脱落を誘発します。

*放射メッシュ形状のエキスパンドグリッドの方が、縦横メッシュ形状の鋳造グリッドより電流分布が理想的形状。


3.厚み(断面積)と内部抵抗の関係

 グリッドを流れる電流は、<オームの法則(R = ρL / A)>で決まる抵抗を持ちます。

ρ:鉛合金の固有抵抗
L:電流経路の長さ(ラグから活物質まで)
A:導体断面積(=格子の厚み・太さ)

したがって・・
◇ 格子が厚いほど(Aが大きいほど)内部抵抗Rは小さくなる。
 → 電圧降下・発熱が少なく、高負荷放電時の性能が安定する。

◆ 薄い格子は軽量・反応面積は増えるが、抵抗増加・発熱リスクあり。
 → 特に始動電流が大きいバイク・車用では不利。

4.グリッド設計による「局所反応」と劣化

もし格子の電流分布が不均一だと・・

●一部の活物質が過電流状態になり、局所的に温度上昇

●そこだけ活物質が剥離・硬化・サルフェーション進行

●結果としてセル全体の容量低下・内部抵抗増加

という負のスパイラルが起きます。


5.まとめ:格子設計が性能を左右する理由

2025-11-10グリッド設計が性能を左右する理由01

おまけ画像です。(* ̄m ̄)ムフ

2025-11-10バッテリー充電aimichiru01a

-続く-

ps1:本記事は自分の知識向上のために調べて作成したものです。 間違い等もあるかもしれません。ご承知おきください。

ps2:近々お出かけの予定があります。記事の途中ですが、準備も含め数日ブログはお休みすると思います。m( __ __ )m





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